アウトドアや登山などで危険な低体温症。人間は体温が下がると活動ができなくなり、最悪死に至ります。体温が奪われる理由として水に濡れることがまず挙げられるのではないでしょうか?雨や汗など水に濡れるとなぜ体温が奪われるのか、しっかりと仕組みを知っておくとより理解が深まります。また仕組みを知る事で体温を奪われない為の対策を考えることもできます。
体からの放熱
体内の温度を36℃とすると通常であれば皮膚の温度は体内より1℃程度低く大体34~35℃になります。通常であれば外界より皮膚温度・体内温度の方が高いですので、体内からは常に外界に向かって放熱が起きています。外界の気温が寒い場合には放熱量が増します。放熱量の増大は体温が奪われることを意味します。
外界気温が体に伝わる仕組み
皮膚表面と外界の間には温度の緩衝地帯である「層」が出来上がります。空気の場合は無風に近ければ大体3mm~4mm程度の層になります。水に濡れている場合(流水の中でない場合)はこの「層」が0.5mm以下になります。「層」は外界の温度と皮膚表面の温度が混ざる領域になります。層の厚みの違いが温度の伝わる速度を変化させます。空気であれ水であれ「層」が厚ければ厚いほど、外界の温度が皮膚表面に伝わりにくくなります。
逆に「層」が薄いと外界の温度が伝わりやすくなるので、外界の温度と皮膚表面の境界温度が下がり、体内温度の放熱量が高まってしまうため結果的に体温が奪われていくことになります。余談ですが風が強い場合に寒く感じるのは、風によって「層」が薄くなるからなのです。また伝熱係数(温度の伝えやすさ)も影響します。物質にはそれぞれ伝熱係数がありますが、水の伝熱係数は空気の170倍程度になります。空気に比べかなり熱を伝えやすいと言えます。
外界の気温が28℃(ほぼ無風)だった場合を考えてみましょう。
空気の場合
空気では皮膚表面と外界の間に4mm程度の層が出来ます。層は外界の温度と皮膚表面の温度が混ざる領域になりますので、空気の場合、4mm程度の層で外界の28℃と皮膚表面の温度35℃程度が混ざることになります。この場合、空気の伝熱効率を考えると層と皮膚の境界では大体34.5℃程度になります。皮膚表面の通常の温度とさして変わりません。この状態であれば体内からの放熱量も普通に近い状態ですので、体温が奪われることにはなりません。おそらく暑くも寒くも感じない外界気温だと言えると思います。
水に濡れている場合
水では皮膚表面と外界の間に0.5mm程度の層が出来ます。空気に比べ層が1/10程度になってしまいます。そのため層はあまり温度の緩衝領域としての役目は果たさず、また水の伝熱効率が空気の170倍であることもあり、層と皮膚の境界では外界気温がほぼダイレクトに伝わり28℃程度になります。空気に比べ、6℃近くも境界温度が低い状態なので、体内からの放熱量は3倍~4倍近くになります。感覚的にも冷たいと感じるのではないかと思います。
外界気温が高くても油断はできない
この様に仕組みを知ると水に濡れた場合、低体温症が非常に起きやすいことがわかると思います。外界気温28℃となると夏の気温といっていいと思いますが、それでも水に濡れると急速に体温を奪われます。上記の計算は肌が露出している条件ですが、服を着ていても服自体濡れているなら、やはり体温はかなり奪われやすい状態になります。28℃でも長時間濡れていると低体温症になる可能性がありますので注意が必要です。